折りたたみスマホで話題の「パスポートサイズ」は、あなたの手のためじゃない
折りたたみスマートフォンが「パスポートサイズ」と称される理由は、単なる偶然では済まされない。パスポートのサイズ(125×88mm)が国際規格として定着した経緯を遡ると、それが人間工学的な配慮ではなく、機械読取技術の要件と国際政治の合意産物であることが見えてくる。スマートフォン業界が参考にしているのは、実は完全に異なる論理で決まった制度文書の寸法なのであり、この点は国際規格全般の成立プロセスを象徴している。
パスポートが現在のサイズになったのは、意外と最近のことだ。1920年のパリ会議で初めて統一規格が決まったとき、パスポートは155×105mmの冊子型だった。これより小さくなったのは、1960年代に飛行機の大衆化に伴い、空港の入国審査が機械化される必要が生じたからである。国連専門機関のICAOは1968年、光学文字認識(OCR)方式で機械が読めるパスポートの開発に着手した。顔写真ページの下に記載される「<<<」の並ぶ機械読取ゾーン(MRZ)は、1行44文字、文字間隔2.54mmという仕様で規格化され、44文字分で111.76mmの幅が必要だった。この技術要件から逆算して、パスポートを125mm幅に収まるよう設計する必要が生まれたのである。
興味深いことに、なぜ125×88mmなのかという問いに対して、国際規格書ISOやICAOの正式な規格書には理由が記載されていない。規格の編集を長年担当したチャールズ・チャトウィン氏の回想によれば、「当時のアメリカとオーストラリアのパスポートがサイズと形式で似ていたので、それが共通の土台になった」という一行が全てである。つまり、世界中の人間の手のサイズや利便性を検討した結果ではなく、英語圏の数カ国が既に使用していた判型が、国際調整の過程で標準化されたということになる。規格書には「製本上必要なら幅を大きくしてよい」という記述まであり、これが示すように重視されたのは手への適合性ではなく、機械読取面の配置という技術的要件であった。
こうした国際規格成立の実態は、製造業にとって重要な示唆を持つ。パスポートのサイズが人間工学的に最適化された結果ではなく、技術的要件と歴史的偶然の産物であるのと同様に、産業用部品や装置の規格も、必ずしも理想的な設計理由を持たないままに標準化される。部品メーカーや素材サプライヤーは、完成品メーカーが引き受けた国際規格に適合させるしかなく、その規格がどのような論理で決まったかを知ることはまれである。折りたたみスマートフォンのサイズをめぐる議論は、単なる家電業界の話ではなく、規格という目に見えない枠組みがいかに産業構造を規定し、部品メーカーの設計の自由度を制限しているかを象徴している。製造業がグローバルなサプライチェーンで競争力を保つには、こうした国際規格の形成過程により敏感になり、規格決定の早期段階で影響力を行使する戦略が求められるといえるだろう。
※ 内容の紹介はここまでです。続きは元記事をご覧ください。
出典:ギズモード・ジャパン




