スタートレックに登場するワープを利用した戦術を物理学者が検証。効果は予想以上だった。
イメージ ブラジルの物理学者が、ドラマ『新スタートレック』に登場する宇宙戦闘機動戦術「ピカード・マニューバー」を時空図を用いて物理学的に検証し、劇中では2つとされていた宇宙船の映像が実際には3つになることを示した。この研究成果は、プレプリントサーバー「arXiv」で公開され、学術誌『American Journal of Physics』への掲載が予定されている。SFの設定を厳密に数学的に分析するこのような研究は、宇宙産業が依拠する物理学の基礎理論の検証と、その応用可能性を示唆している。
ピカード・マニューバーは、敵艦との戦闘を描いた『新スタートレック』第1シーズン第9話で、ジャン=リュック・ピカード艦長が編み出した架空の戦術として登場する。シールドが故障した絶体絶命の状況の中、宇宙船スターゲイザーが光より速い速度(ワープ)で敵に接近した後、至近距離で急停止して攻撃を仕掛けるというものだ。理屈は単純である。光より速く動く物体は、自らが放出した光を追い越してしまうため、ワープ前の位置と停止後の位置から出た光が同時に敵に到達し、敵には2つの宇宙船が見えるはずという考えだ。劇中では敵がこの2つの像のうち間違った方を攻撃し、ピカード艦長の勝利となった。
ABC連邦大学の物理学者ニコラス・デ・アギアル・アルヴェス氏は、素粒子物理学の研究中にこの戦術の原理に気付いた。彼は、光が進む速度より速く動く粒子が、物質の中(特に水などの媒質)でどのように振る舞うかを計算していたのだ。興味深いことに、光より速く動く粒子は単なるSFの設定ではなく、現実に存在する。水中などで光より速く進む粒子は「チェレンコフ放射」と呼ばれる青い光を放出するのだ。アルヴェス氏は時空図を描きながら思考を整理していて、この物理現象がスタートレックの戦術と同じ原理に基づいていることに気がついたという。
時空図を用いた詳細な検証の結果、重要な発見が得られた。単に光より速い一定速度で宇宙船が進み続ける場合、敵に見える像は最大2つにとどまる。しかし、ピカード・マニューバーで決定的に重要なのは、宇宙船が加速と減速という2段階の速度変化を行う点である。この加速と減速を繰り返すことで、特定の瞬間(約4秒から7秒間)に3つの像が同時に敵に見えることが明らかになったのだ。その3つとは、まずワープ前にとどまっていた位置の像、次に停止後の現在地の像、そして戦術の最中に移動している宇宙船の像である。第3の像は、光の到達時間のズレにより、時間が逆向きに進むように見えるという興味深い性質を持つ。これは劇中では描かれなかった現象であり、番組がアイデアの本質は捉えながらも、像の数を過小評価していたことを示唆している。
この研究は基礎物理学の理論検証であり、直接的な実応用は想定されていない。しかし、複雑な物体運動を時空図で可視化し、光の伝播時間を考慮した解析手法は、衛星やロケットの軌道計算に用いられる基礎的な思考方法と共通している。さらに注目すべきは、チェレンコフ放射のような光より速い粒子の検出理論が、実際には衛星搭載の放射線センサーや宇宙線観測装置といった、具体的な検出機器の開発に関わる重要な技術分野であることだ。このような基礎物理の厳密な理論検証が、宇宙機器メーカーの設計仕様や部品サプライヤーのセンサー開発の基礎となっており、理論と実装の結合点を強化していると考えられる。SFの想像上の概念を科学的に追究する営みが、宇宙産業全体の技術基盤の深化につながる可能性を示唆しているのである。
※ 内容の紹介はここまでです。続きは元記事をご覧ください。
出典:カラパイア