リュウグウおよび隕石に見過ごされてきた物質、古い化学組成が水の影響を受けなかった理由を説明できる可能性
小惑星リュウグウと一部の炭素質隕石を対象に、金沢大学と東京大学の研究チームが放射光施設で分析し、これまで見過ごされてきた物質を見つけた。この物質は、天体の化学組成を大きく変えずに水との反応が進んだ理由を説明する手がかりになる可能性がある。研究は学術誌Communications Earth & Environmentに掲載された。
リュウグウや炭素質隕石は、太陽系初期の化学組成をよく保つ「始原的」な物質として知られる。一方で、形成後に水と広く反応し、もともとの鉱物の多くが別の鉱物に変わっていた。岩石が水と反応すると元素が溶け出したり移動したりするため、本来なら組成は変わるはずで、両者は矛盾して見える。従来は、この変質の主な産物として蛇紋石とサポナイトが考えられてきた。今回、研究チームは軟X線吸収分光法を用いて、これらに加え、結晶性の低いマグネシウム珪酸塩水和物(M-S-H)に似た成分が広く存在することを見いだした。
M-S-Hの特徴は、マグネシウムとケイ素の比を幅広くとれる点にある。一般に組成の異なる物質は、異なる水環境で安定になると考えられる。しかし、室内実験と既報の溶解度データを合わせると、異なるMg/Si比のM-S-Hが似た水環境で共存しうることが示された。観測された蛇紋石やサポナイトも、対応する組成のM-S-Hを前駆体として生じ、その後より結晶性の高い鉱物へ変わった可能性がある。金沢大学の福士圭介氏は、この柔軟性が、母天体内の既存の組成差を消さずに水と岩石の反応が進んだ過程を理解する鍵になりうると述べている。
宇宙産業の視点では、この知見は天体の成り立ちと水の作用を読み解く基礎研究の深まりを意味する。どの鉱物がどの条件で生じたのかを判断する考え方は、将来の資源探査や試料分析で、採取場所ごとの違いを解釈する際の土台になりうる。直接的に製品や市場を動かす話ではないが、探査で何を重視して分析するかという方針に影響する可能性があると考えられる。
日本の製造業にとっては、間接的ではあるものの関わりどころが見えてくる。放射光施設での微細な構造解析は、高輝度の光源や高感度の検出器、精密な試料ステージといった計測機器の部品と技術に支えられており、そうした領域での需要が増える余地がある。また、水と反応しながら局所的に組成が変わるという現象は、地上で素材が水分や環境にさらされて劣化する課題を考える際の参考にもなりうる。部品・装置・素材を手がける企業にとっては、こうした基礎研究の進展を、計測技術や耐環境材料の将来像を見通す材料として捉える意義があると考えられる。
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