ステファンの五つ子銀河で激動の星形成
銀河群Stephan's Quintetで、分子ガスが豊富であるにもかかわらず星形成効率が極めて低い地域の理由が、乱流であることが明らかになった。大阪公立大学の研究チームがチリの電波望遠鏡アレイを用いた観測から、銀河相互作用が生み出す乱流が、ガスの重力塌縮を阻害することを示した。
星形成と分子ガスの関係は、天文学において確立した認識である。銀河同士の衝突では、相互作用によってガスが圧縮され、その重力で密度の高いガス雲が崩れ落ち、新しい星が生まれるとされてきた。しかし観測を進める中で、一見すると逆の現象が報告されるようになった。十分な星形成の原料となる分子ガスを持ちながら、ほとんど新しい星を生み出さない銀河領域が存在するのだ。Stephan's Quintetは5つの銀河が互いに作用しているシステムであり、そのような星形成効率の低い領域を複数持つことが知られていた。今回の研究は、チリに設置されたアタカマ・コンパクト・アレイという電波望遠鏡ネットワークを使い、この銀河群全体の分子ガス分布と運動を初めて詳細に描き出した。分析の結果、分子ガスの運動が激しく乱流状態にある地域ほど、星形成の効率が低下することが判明した。ガスが豊富であることと、星が生まれる効率とは、必ずしも比例しないということである。
研究チームは、銀河の相互作用がもたらす乱流が、重力による塌縮を妨げるという仮説を提示した。ガスが乱流状態で激しく動いている場合、その運動エネルギーがガスを散逸させ、一部の領域がまとまって濃縮し、重力で圧潰されるのを防ぐと考えられる。つまり、銀河衝突がもたらすのは圧縮だけではなく、同時に分散も引き起こすということだ。どちらの効果が優位になるかは、ガスの状態と運動パターンに左右される。星形成は銀河進化の最も基本的なプロセスの一つであり、特に宇宙の初期に多くの銀河相互作用が起きていた時代において、この現象が星形成を促進したのか抑制したのかは、宇宙の進化履歴を理解する上で重要な問題である。
こうした基礎研究を支えるのは、高度な観測技術である。アタカマ・コンパクト・アレイを含む電波望遠鏡ネットワークは、多くの高精度センサ、制御システム、通信機器などの精密部品で構成される。観測装置の開発・製造には、光学部品や電子機器などで高い技術を有する日本の製造業が関わりうる領域が存在する。また大学や研究機関の所有する観測機器の保守・更新は継続的な需要を生み出し、基礎研究を支える産業インフラの充実は、わが国の産業競争力の基盤となる。
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