北極圏の宇宙拠点「エスレンジ宇宙センター」が開設60周年を迎える
イメージ スウェーデン北極圏のエスレンジ宇宙センターが開設60周年を迎え、この老舗研究拠点がロケット打ち上げ基地への本格的な転換を急速に進めている。衛星軌道投入に対応する専用発射台の建設が進行中であり、アメリカのロケット企業も参入することで、ヨーロッパの打ち上げインフラの拡大が具体的に動き始めた段階だ。
エスレンジは1966年の初号機打ち上げ以来、60年間にわたり観測ロケットと高高度気球による大気やオーロラの科学観測を支えてきた。北極圏という独特な地理的条件が、実は大きな強みになっている。周囲に人口が少なく、観測ロケットが落下する広大な回収区域を確保できるという特性が、微小重力実験や特殊な飛行試験に最適な環境を提供したのだ。これまで600機以上の観測ロケットと700機以上の高高度気球が打ち上げられてきており、日本のJAXAも2015年、超音速飛行時の衝撃音低減技術の実証試験(D-SEND#2)をここで実施している。現在、エスレンジは衛星通信拠点としても機能しており、40基以上のアンテナが北欧各地の衛星データを中継する重要な役割を担っている。
転機は数年前から顕在化し始めている。ヨーロッパの再使用型ロケット段「テミス」の離着陸試験がエスレンジで進む一方で、SSC Space(スウェーデン国営企業)とアメリカのファイアフライ・エアロスペースは2026年9月、エスレンジから小型衛星打ち上げロケット「アルファ」を2回打ち上げる契約を発表した。打ち上げは早ければ2028年以降を予定しており、スウェーデン政府の安全保障関連衛星に加えて商業衛星の相乗りにも対応する計画だ。専用の発射台「ローンチコンプレックス3C」では管制施設、衛星準備施設、ロケット組み立て施設がすでに完成しており、現在は発射台そのものの建設が進められている最中である。これらの施設整備により、ヨーロッパの限られた打ち上げオプションの中で、スウェーデンが確実な打ち上げの選択肢を提供できるようになる見通しだ。
こうした変化は、ヨーロッパの宇宙アクセス戦略の現実的な転換を示している。従来は単一の政府機関やロケット開発企業が打ち上げ拠点を占有する時代であったが、複数のロケット企業が同じ施設を相互に利用する時代へと移行し、その結果として打ち上げインフラの地理的分散が急速に進行している。日本の部品・装置メーカーにとっても、欧米のロケット企業との商用取引の拡大に伴い、こうした北欧の施設が重要な試験・打ち上げの場として認識される可能性は高まるだろう。実際、日本の宇宙機関がすでにエスレンジを利用した実績があり、今後のスタートアップや商用ロケット企業の利用が増えれば、部品供給やシステム統合、技術協力などの機会が拡大する道が想定できる。
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出典:sorae
