NASAの打ち切り月軌道宇宙ステーション技術、アルテミス基地で活用
NASAが月周回ステーション「ゲートウェイ」計画をキャンセルする際に生じた居住モジュール「HALO」の技術が、月面基地構築のための新たなミッションに転用される。当初は廃棄が予定されていた高度な機器やシステムが、米国の月面ミッション加速を支える資産として新たな役割を得ることになった。
ノースロップ・グラマン社は、キャンセルされたHALOモジュールの電気・機械インターフェースや制御技術を、月面インフラデモ(LID)ミッションの開発に適応させている。HALOはもともと月周回軌道上に配置される予定の居住・補給施設の中核を担う設計だったが、NASA管理部のジャレド・アイサックマン長官が3月に発表したアルテミスプログラム再編により、プログラム全体のアーキテクチャが大きく変わった。その過程で開発中のHALOモジュール全体が余剰となったのだが、ノースロップは既に高度な仕様に育った電力制御系、熱管理システム、データインターフェースなどのコンポーネントを新しいミッションに活かすことを選択した。米国と中国が月面での活動で競争を続けるなか、NASAはアルテミスプログラムの加速を急いでいる。その背景には、中国の有人月面着陸計画が実質的な進展を見せていることがある。
NASAが月面拠点を建設しようとしている場所は、月の南極地域だ。この地が選ばれた理由は、この地域に豊富に存在することが確認された水氷の資源価値にある。月面での長期滞在を実現するには、現地調達資源利用(ISRU)という技術が極めて重要だと考えられている。つまり、現地で得られる水氷を飲料水、放射線遮蔽、ロケット推進剤などとして活用する能力である。この技術が確立できれば、ロケットの打ち上げ時の燃料搭載量を大幅に削減できる。ロケットの総質量の約95%は燃料であることを考えると、この削減効果は極めて大きい。月面での燃料補給が可能になれば、衛星や有人宇宙船は現在のシステムでは到達不可能な距離にまで飛行できるようになるのだ。
LIDミッションでは、HALOの技術をベースに、月面での電力供給、熱管理、自動運用、通信、搭載機器のサービス機能などを成熟させるとしている。こうしたデモンストレーションを通じて、南極地域で数週間にわたる極夜環境下での長期運用に耐えるインフラを検証する。ノースロップとNASAはこれらのミッションの具体的なスケジュールを公表していないが、予定されている有人月面着陸は2028年末のアルテミスIVミッション前後となる。その前に、月面基地の基盤となる無人ミッションが20近く計画されており、HALOの技術はこうした準備段階の各ミッションで繰り返し検証される可能性が高い。
日本の部品・装置サプライヤーにとって、このような動向は複数の示唆を持つ。まず、宇宙ミッションの予算やスケジュールが急速に変わる可能性があり、既存のプロジェクトがキャンセルされても、その技術資産は別のミッションに転用される可能性が高いということだ。第二に、米国の月面活動の加速化によって、耐久性や極限環境での動作信頼性を備えた部品・素材への需要がさらに高まると考えられる。月面の南極地域は、数週間の極夜を経験する過酷な環境であり、部品やシステムはこうした条件下での性能保証が求められるからだ。こうした高度な仕様への適応が、日本の精密加工・素材メーカーの競争力を左右する重要な要素になる可能性がある。
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