火星の「ジャガイモ型」衛星ダイモス。ツルツル美肌の理由とは
火星の衛星ダイモスが約45度の角度で衝突した直径約320メートルの小惑星によって、表面が数百メートもの砂や岩石(レゴリス)の層で覆われたことが、シミュレーション研究で示唆された。火星には二つの衛星がある。一つはフォボスで、もう一つがダイモスだ。ダイモスは約15×12×11キロメートルと比較的小さな天体だが、同じ火星周辺にあるフォボスと大きく異なる特徴がある。フォボスの表面はクレーターや起伏に満ちた凸凹した状態なのに対し、ダイモスの表面はジャガイモの皮のようにツルツルしている。この両衛星の表面形態の違いが、科学者の関心を引いてきた。今回、この謎を解き明かすための研究が公開されたのだ。
研究チームは、コンピューターシミュレーションに取り組んだ。ダイモスを数百万個の小さな粒の集まりとしてモデル化し、様々な条件下での小惑星衝突を再現した。小惑星の大きさや衝突角度を変えながら、約百通りのシミュレーションを実行した。各計算には約一週間を要したという。その結果、現在のダイモスの地形を最も適切に説明するのが、直径約三百二十メートルの小惑星が約四十五度の角度から高速で衝突したシナリオであることが判明した。衝突の衝撃によって大量の砂や岩石が吹き飛ばされたが、そのすべてが宇宙へ失われたわけではない。多くの物質が再びダイモスへ落下し、表面に堆積したと考えられる。シミュレーションでは、このレゴリス層が場所によっては二百メートを超える厚さに達した可能性が示されている。このように分厚い層が古い表面を埋め尽くすことで、ダイモスは滑らかな表面を手に入れたのである。
しかし、この仮説にはやや複雑な点がある。これほど大規模な衝突があったのに、レゴリスの下には古いクレーターの痕跡が残っている。二〇二五年に欧州宇宙機関(ESA)の探査機ヘラがダイモスの画像を撮影した際も、埋もれたクレーターの存在が確認されたのだ。古い地形が大衝突を耐え抜いた理由は、ダイモスの内部構造にあると研究チームは考えている。固くコンパクトに圧縮された岩石だけで構成されていれば、衝突の衝撃は内部全体に伝わり、古いクレーターは破壊されるはずだ。ところがダイモスには古い地形が保持されている。これは、ダイモスの内部が多孔質で、大小の岩や破片が集まった構造である可能性を示唆する。こうした天体は「ラブルパイル天体」と呼ばれ、小惑星の中でも知られている構造だ。多くのすき間があれば、衝撃のエネルギーはそこで吸収され、天体全体がバラバラになることはない。ダイモスがラブルパイル構造を持つなら、大きな衝突を受けても深刻な損傷を免れたと考えられる。
この研究成果は、衝撃シミュレーション技術の精度を示すとともに、遠い天体の内部構造を推測する重要な手がかりを与えている。ダイモスが本来は小惑星だったのか、あるいは火星への衝突で飛び散った物質が集まったものなのかは、まだ明らかになっていない。しかし、こうした謎の解き明かしは、やがて小惑星採掘やサンプルリターン探査といった実用的な宇宙活動の基盤となる。部品や材料の供給を担う日本の製造業にとっても、宇宙探査機の高度化に伴う部品需要の増加や、衝撃吸収材料への応用研究など、新たなビジネス領域が広がる可能性を示唆している。
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出典:ギズモード・ジャパン




