暗黒物質の崩壊に初の観測的制限 宇宙構造から
ダークマターがより一層謎めいた存在へと姿を変えつつある。ニューヨーク大学の David Dunsky らの研究チームは、ダークマターが重力子(グラビトン)と呼ばれる仮説上の粒子に崩壊する可能性を初めて観測的に制約する方法を提案した。宇宙全体の質量の約85パーセントを占めるダークマターの謎に新たなアプローチが生まれようとしている。
ダークマターは電磁波を発しないため、その存在は銀河の運動や配置に対する重力的影響を通じてのみ確認できる。つまり、私たちは何世紀にもわたって、その正体を知らないまま「それがそこにある」ことだけを認識している。Dunsky チームは、このダークマターが極めてゆっくりした速度で、重力を媒介すると考えられるグラビトンに変換される可能性に着目した。グラビトン自体も未だ検出されたことのない粒子であり、個々の粒子に対する重力の作用は極めて弱いため、直接的な観測はほぼ不可能と見なされてきた。
しかし、Dunsky チームが提唱する方法には興味深い転機がある。ゲルツェンシュテイン効果として知られる過程により、グラビトンが磁場を通過すると、ごく低い確率で光子(光)に変換される可能性がある。このプロセスが最も頻繁に起こると考えられる場所が、宇宙フィラメントだ。フィラメントは銀河同士を繋ぐ微細な構造であり、宇宙全体に張り巡らされた網の目のように広がっている。これらのフィラメントは弱いながらも、数百万光年にわたって一貫性をもつ磁場を備えており、観測可能な宇宙の相当な部分を占めている。
研究チームは、Fermi-LAT 衛星が観測した背景ガンマ線データと理論予測を比較することで、ダークマター崩壊速度に初めての上限値を設定した。説明できない過剰なガンマ線が検出されなかったという「非検出」のデータ自体が、ダークマター崩壊がいかに遅い過程であるか、あるいは起こっていない可能性すら示唆している。この手法は銀河中心部という従来の探索領域ではなく、遠方の銀河間フィラメントに焦点を当てる点で革新的である。また、確立された物理学に基づいているため、未知の新しい理論を必要としない。
将来、Fermi 衛星の後継である Advanced Particle-astrophysics Telescope が実現すれば、精度は 10 倍以上に向上すると期待される。これが実現すれば、グラビトンへのダークマター崩壊がもし実際に起こっているなら、その痕跡をより明確に捉える手段が手に入ることになる。こうした高精度観測機器の開発・製造を支える産業として、宇宙観測機器に携わる日本の部品・装置メーカーにとって、中長期的な技術開発の方向性と需要を指し示すものとなり得る。
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