金星では地溝帯の一部が現在も拡大し続けている? 将来の金星探査ミッションに期待
イメージ スイス連邦工科大学の研究チームが最新の数値シミュレーションにより、金星の地溝帯の一部がごく最近まで活発に活動していた可能性を発表しました。これまで「地質学的に死んだ惑星」と考えられていた金星の地殻活動像を大きく変える知見です。
金星は表面温度が約470℃、気圧が約90気圧という地球にとって過酷な環境を持つ惑星です。1990年代にNASAの探査機マゼランが金星の表面を観測した際、プレートテクトニクスの明確な証拠が見出されず、金星は地質学的に活動を止めた「死んだ惑星」というイメージが定着していました。一方、金星の表面には地球のアフリカ大地溝帯に似た地溝帯が広がっており、その総延長は約4万kmで金星表面の約8%を占めています。これらの地溝帯は地質学的には新しい地形として知られていましたが、実際の形成時期は不明で、1億年以上前に形成されたと推定されていました。「本当に古い地形なのか、それともごく最近も動いているのか」という疑問が、今回の研究の出発点となったのです。
研究チームは3次元の熱力学数値シミュレーション「I3ELVIS」を用いて、異なる岩石組成、岩石圏の厚さ、拡大速度の条件下で金星の地溝帯形成過程を再現しました。その結果、地溝の縁に形成される幅広い隆起地形が、地質学的に若い、または活動停止から間もない地溝の目印であることが判明しました。地球では侵食が地形を削りますが、金星では地殻がゆっくり沈み込むことで隆起が平坦化し、その速度は岩石の種類によって大きく異なります。ダイアベースのような組成では約1500万年で隆起が平坦化する一方、より頑丈な苦鉄質グラニュライトでは1億年近く経っても隆起の痕跡が残るとされています。拡大速度は年間3〜10cmと、これまでの想定よりも速いことも示されました。
実際の金星地形データとシミュレーション結果を照らし合わせたところ、アトラ地域のガニス・シャスマとダリ・シャスマ、ベータ地域のデバナ・シャスマという3つの地溝帯が、いずれも幅広い隆起地形を伴っていることが確認されました。これらの隆起地形は拡大速度が年間3〜10cmという活動初期段階のシミュレーション結果と一致しており、数千万年以内に活動していたか、現在も活動している可能性が示されています。また、地溝帯形成には厚さ150km程度の岩石圏が必要で、より薄い岩石圏では地溝構造自体が成立しないことも判明しました。
この発見は2030年代前半の打ち上げが予定されているESAの金星探査ミッション「EnVision」の方向性に影響する見込みです。研究に参加するスイスの研究者は、今後の金星地殻活動評価がより正確になると述べており、今回示された「幅広い隆起地形=活動的な地域」という指標は、将来のミッションで重点的に観測すべき候補地の選定に直結します。今後、国際的な金星探査プロジェクトが拡大する可能性があり、日本の部品・素材メーカーにとって、金星の過酷な環境下で動作する機器や耐熱・耐圧部品の開発機会が生まれる可能性があります。そうした技術は他の宇宙ミッションにも転用可能であり、競争力を持つと考えられます。
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出典:sorae




