月のレゴリスは超新星爆発の記録を残した“タイムカプセル”? 数理モデルで可能性を検証
イメージ ハワイ大学の研究チームは、月の表面を覆う砂状の堆積物であるレゴリスから、かつての超新星爆発の痕跡を読み解くための新しい数理モデルを開発した。その研究成果が学術誌『Physical Review Letters』に掲載されたもので、月面に積もった物質が遠い過去の宇宙現象を記録する"タイムカプセル"として機能することを示唆している。
従来、太陽系周辺の超新星爆発由来の物質追跡は、地球の深海堆積物の分析に頼ってきた。放射性同位体である鉄60は、約260万年の半減期をもつ物質で、約230万年前と約730万年前の二度、地球に降り注いだ痕跡が確認されている。しかし深海での堆積速度は極めて遅いため、より古い年代へ遡ろうとするほど必要な試料量が増大し、分析難度が高まる。この制約によって、これまで測定できた期間は約1000万年前までにほぼ限定されていたのだ。研究チームが月のレゴリスに着目したのはこのためである。大気がほぼ存在しない月面では、有機物の分解や化学変化が地球ほど進まず、レゴリスは8000万年から1億年、さらにはそれ以前の古い時代の宇宙現象の記録を比較的よく保持できると考えられるのだ。
月面での記録保持には利点がある一方で、特有の困難も存在する。大気のない月では隕石の衝突が絶え間なく続き、その衝撃によってレゴリスが掘り返されては積もり直される現象が起きている。これは「インパクトガーデニング」と呼ばれるもので、超新星由来の放射性同位体など物質の分布を極めて複雑に混ざり合わせてしまい、有用な信号を抽出することが困難だった。研究チームが今回開発した数理モデルは、隕石衝突による圧縮と掘り返し、放射性崩壊、宇宙風化といった複数の物理過程を、一つの連続的なフレームワークの中で統一的に扱うことに成功している。アメリカ航空宇宙局のアポロ計画で採取されたコアサンプルを用いてモデルの精度を検証したところ、良好な結果が得られたという。半減期が約8130万年のプルトニウム244といった重い放射性同位体の深さごとの存在量を比較することで、最近の超新星爆発に由来する物質と定常的に降り積もった物質を区別できる可能性が示されたのである。
今後、アメリカ主導の有人月面探査計画「アルテミス計画」では、月の南極域においてレゴリスの新たなコアサンプルが採取される予定である。研究チームは開発した数理モデルが、採取されるサンプルの分析指針として有用になると述べている。また、中国の嫦娥計画で採取された月サンプルの分析にも活用できるとみられている。異なる緯度でのサンプル採取と分析を組み合わせることで、超新星が発生した方向をより正確に特定できる可能性がある。月面での科学探査が加速することは、月面掘削やサンプリング機器、試料を保護・密閉する容器、地球への回収システム、そして精密な分析機器といった多くの機器の需要につながる。日本の製造業にとって、月探査計画の進展は宇宙機器用の精密部品やセンサー、計測装置などの供給市場としての機会を意味するとともに、宇宙科学の最前線に貢献するサプライヤーとしての立場を国際的に確立する契機ともなり得るのである。
※ 内容の紹介はここまでです。続きは元記事をご覧ください。
出典:sorae


