月は巨大衝突からわずか5時間で形成された可能性
月は45億年前の地球と火星サイズの原始惑星の衝突から、わずか5時間で形成されたという新しい研究結果が報告された。太陽系形成初期のこの劇的な出来事を解き明かすために、最新のコンピュータシミュレーション技術が駆使されたのである。
月形成に関する「ジャイアント・インパクト仮説」は、惑星科学者ロビン・カナップが2001年から改良を重ねてきた理論である。火星サイズの原始惑星テイアが地球に斜めから衝突し、そのデブリが地球周回軌道に投げ出されて月が形成されるというメカニズムだ。これまでのシミュレーションでは、月形成に要する時間について二つのシナリオが示唆されていた。一つはデブリリングが長期間存在し月がゆっくり集積するケース、もう一つはわずか数時間で形成されるケースである。今回、南西研究所のアディーン・デントン率いるチームが導入したのが「材料強度」という要素だ。温度に依存する材料強度が衝突の結果を大きく左右することは小惑星衝突や冥王星とカロン衛星の形成では既に知られていたが、月形成規模の衝突でも同様に重要であることが詳細なシミュレーション計算により初めて実証されたのである。
温度は物質の強度に直結する。太陽系形成直後にテイアが地球に衝突した場合、その外部は高温であり、インパクト時の変形能力が高く、衝突の運動量を吸収しやすい状態にあった。この条件下ではテイアはほぼ完全に破壊され、大量のデブリが地球周辺に放出されて、わずか5時間以内に月が集積する。シミュレーション結果によると、太陽系形成から60百万年以内の衝突がこのシナリオに該当する。一方、100から150百万年後の衝突では、材料がより冷たく硬くなり、テイアの一部がそのまま地球に合併し、デブリリングは長期間存在して月はゆっくり集積する可能性がある。衝突時の熱状態により、月形成のタイムスケールが劇的に変わるのである。
この研究結果は系外惑星系における衛星形成ディスクの探索にも影響を与えると考えられる。月がわずか数時間で形成されたなら、そうしたディスクは極めて短期間しか存在しないため、地球型惑星の周囲でそうしたディスクを観測できる可能性は限定的となる。これに対しガス巨星周りの衛星ディスクは衝突ではなく惑星形成の残存材料から形成されるため、観測の見込みがより大きい可能性がある。また月の現在の物理特性が、衝突当時の地球とテイアの熱状態とどう関連するかの理解は、月形成がいつ起きたかをより正確に制約することに繋がると考えられるのである。
基礎的な惑星形成過程の理解の深化は、将来の月・火星探査やミッション設計にも影響を与える可能性がある。同時に、この研究が採用した「材料の温度依存性」を考慮したシミュレーション手法は、様々な衝突現象の工学計算にも応用の道が開かれている。日本の部品・素材メーカーが人工衛星や探査機の構成要素を供給する際にも、こうした基礎研究の知見が将来のミッション要求仕様の根拠となり、材料選定や耐久性評価へと反映されていくと考えられる。
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